相続放棄をする理由・動機について

文責:弁護士 鳥光 翼

最終更新日:2020年10月26日

1 相続放棄の理由に制限はありません

 条文上、相続放棄をする理由は限定されていません。

 ただし、裁判所としては、なりすまし防止や行為能力の確認の観点から、ある程度の合理性は担保したいと考える傾向にあります。

 お亡くなりになられた被相続人に資産がなく,負債のみがあった場合(いわゆる債務超過)などが相続放棄をする理由の典型的なものですが,これ以外にも,よくある例としては,生前に充分な贈与を受けている,遺産を分散させたくない(特定の相続人に遺産を集中させる),他の相続人や親族と関わりたくない,というものがあります。

2 債務超過

 債務超過とは、被相続人が有していた財産の評価額よりも、負債の評価額の方が大きい場合のことをいいます。

 亡くなられた方が生活保護を受けていた場合などは、債務超過に陥っている可能性が高いです。

 生活保護に限らず、収入が乏しい中で、クレジットカード会社や消費者金融に借入をしていたケース,税金を滞納していたケース,入院等をしていて治療費を滞納していたケース,知人の連帯保証人になっていたケースなどがあります。

 その他,負債の状況が明確にはわからないが,被相続人がかつて事業を営んでおり,多額の借金をしていたかもしれない場合や,知人の連帯保証人になっていると聞いたことがある場合など,「多額の負債を有しているおそれ」というレベルでも相続放棄の理由となります。

3 生前贈与を受けている

 生前に多額の贈与を受けている場合,他の相続人とのアンバランスを解消するため,贈与を受けている人が相続放棄をするということがあります。

 生前の贈与が特別受益に該当するようなものである場合、遺産分割協議において争点となることもあるため、これを防止するために行われることがあります。

 もちろん,遺産分割協議において遺産を取得しないという形でもよいのですが,より確実に他の相続人に遺産がいきわたるようにするため,裁判所を通じて相続放棄をし,法的に相続人でなくなるということをします。

4 遺産を分散させたくない

 慣習・風習や、家系に関する価値観によっては、家業を継ぐ相続人に全ての財産(負債も含む)を集中させるという考えのもとで,その他の相続人全てが相続放棄をするというケースもあります。

 地元に残った一人の相続人を除いて、他の相続人が遠方に出てしまった場合などは、このようにした方が相続手続きが簡便であったりもします。

 遺産分割協議でも同じような効果を発生させることができますが,遺産分割協議書に署名押印を得るまでは確実ではないということと,債務がある場合に免責的債務引受契約をしなければならないという煩雑さがありますので,相続放棄の方が確実かつ簡便に実現できます。

5 他の相続人と関わりたくない

 問題のある相続人がおりトラブル回避のため遺産分割協議をしたくない場合や,被相続人が離婚再婚をして別の家庭を持っているため相続に関与すべきでないという場合にも相続放棄手続を使います。

 相続放棄の理由としては、感覚的には、債務超過の次に多く見られます。

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